脱出ゲーム

今日も頭上にはまばゆいばかりの快晴が広がっている。
は燦々と陽光が照らす聖域の一角を、仲の良い黄金聖闘士であるシュラ、デスマスクと一緒に駆け回っていた。

、おい、待てよ」
「少し休憩しようぜ」

ぜぇぜぇと息を切らせながら走ってくる男二人に、と呼ばれた少女は息ひとつ弾ませることなく声をかける。

「二人とも、走るの遅いよぉ」
「はあ?オレ達が遅いんじゃなくて、お前が速過ぎるんだよ」

悪態をつくデスマスクの隣では、シュラが「そうだそうだ」という風に頷いている。
はにっこりと笑うと、「だって、早くいつもの小屋で修業がてら遊びたいんだもん」とはしゃいだ声を上げる。
デスマスクとシュラは顔を見合わせ、にこの遊びを教えたのは間違いだったと、どちらからともなくため息をついた。





が言っている「修業がてらの遊び」というのは、三人が先日見つけた小屋にコイントスで負けた者を一人縄で縛りつけ、聖闘士としての技でその緊縛を破って脱出するというものだ。
三人は「脱出ゲーム」と呼んでいるのだが、彼らを縛る縄はもちろん、普通の縄ではない。
それぞれが自分の技をかけ、相手にどれだけ解き難い思いをさせられるかという、ある種の勝負でもある。
脱出までの時間を測り、一番長くかかった者にはお菓子を奢らせたり、三人の間では最近、このゲームが大ブームとなっていた。
特に男性陣二人の、に対する圧力と言ったらない。
彼女は最も神に近い男と称されるシャカの弟子で、まだ黄金聖闘士の称号を得ていない身でありながら、黄金聖闘士に勝るとも劣らない実力を持っている。
対してシュラとデスマスクは、山羊座と蟹座のれっきとした黄金聖闘士だ。そんな二人がこのまだ少女とも言える年齢のに、連戦連敗中というのは、アテナに顔向けできない話なのだった。
無論、シャカに至っては自分の弟子にすら負けるシュラとデスマスクを、口にこそ出さないが完全に見下しているのがわかる。

「今日こそお前を負かしてやる」

デスマスクが鼻息荒くに宣言したが、当のは「できるものならやってみたら?」と飽くまで強気だった。
そう、普通に彼女が力を発揮すれば、師匠譲りの大技で、二人の技など容易く破れるのだ。
だが、この日は誰も想像できなかった思わぬ誤算が生じることとなる。

「今日は暑いね。ゲームの前にお水飲もうよ」
「そうだな」

三人は井戸から水を汲み、存分に喉を潤した。
そして……いざ小屋に着くころには、俗にいう水腹でお腹がたぷたぷしている。
それはいくら神に近いと称されているとはいえ、元は普通の人間であるにも防ぎようがない。

(うぅ、お水飲み過ぎちゃったかも……)

はぽっこりと膨らんだ下腹を、普段着のワンピースの上からこっそり触ってみた。
その時、鈍痛のような微かな違和感を感じ、

(あれ?)

と首を傾げたものの、その時は深く考えることもなく、デスマスクとシュラと共に、いつもの小屋に入っていった。





小屋の中でコイントスをして、よりによって負けたのはであった。

「よっしゃあ」

男二人の歓喜の叫びを聞きながら、は悔しがりつつも、意識は別のところに飛んでいた。
そう―――先程感じたほんの少しの違和感の正体が、漸くわかったのだ。

(やだ、トイレ行きたい……)

別に遠慮する間柄でもないので、「遊ぶ前にトイレに行ってもいい?」と言えないことはないのだが、よくよく考えてみるとここは森の中と言っても過言ではなく、トイレは近くにない。
男子二人は、こっそりと草叢で立小便でもしているようだが、女の子のにはそんな真似はできないし、できないとわかるとますます意識してしまう。

「じゃあ、始めようぜ」

シュラが小屋の隅に重ねていた遊び道具を取り出し、二人がかりで手早くの両手両足を縛っていく。

(まあ、手足くらいならさっさと解けるし……。早く終わらせてすぐに用を足せるような所を探さなきゃ)

しかし、ここでも想定外のことが起こった。
シュラが、の腰回りも縄で縛ったのだ。

「えっ……」
「お前、手足くらいなら簡単に解いちまうだろう」
「そうそう、それじゃ面白くないんだよ」

これで良し、と、二人が彼女から離れた時には既に、は全身に縄が巻き付いているような状態であった。
しかも、どのような技をかけているのか、少し身じろぎしたくらいではびくともしない。
それどころか、縄自体が生き物のように体に食い込んでくる。

(お腹を締め付けられると、ちょっとキツイかも……)

「じゃあ始めるぞー」

シュラの呑気な声で、いつもの遊びは始まった。
は瞬く間に頭を巡らせ、縄を解こうとしたが、一本は切れても、幾重にも重ねて巻きつけてあるようで、なかなか最深部の縄が動いてくれない。

「何これ、硬いんだけど……」
「習得したばかりの技をかけてある。まだ未完成だから内容は言えないけどな」

どこか誇らしげなシュラの声に、は歯ぎしりした。

(だめ、今お腹に力入れたら、おしっこ出ちゃうよ……)

といっても、腹に力を入れて小宇宙を最大限に燃やせば、こんな縄、容易く解けるだろう。

(ああもう、トイレさえ我慢してなければ……)

は出来る限り力を抑えて小宇宙を燃やし、何とかぽつぽつと縄に切れ目が入ってきたのは確認できたが、最深部だけは、縄の見た目以上の太さのものに強く縛られているような感覚である。

「何これ、解けない……」
「そりゃ、簡単に解かれちゃたまらねぇからな」
「オレ達も、今回はかなり工夫したんだ」

いつものなら、二人の技の上達を一緒に喜べるのだろうが、今回ばかりはそうはいかない。

「うぅ、くっ……」

解こうと腹の底に力を入れると、たちまち、じんわりと尿が漏れてくる。

(あ、おちびりしちゃった……)

ショーツが生温かく濡れる感触に、かあっと頬が熱くなる。
このまま続けると、尿が漏れ出てくる一方である。
慌てて力を込めるのをやめて、再度ちまちまと小宇宙を燃やし、縄が緩んでいくのを待った。
その様子に、流石に二人も訝しんだようで、

、お前本気でやってるのか?」
「いくら俺達が技をかけたっつっても、お前に解くのがそんなに難しいとは思えねぇんだけど」

と疑問を口にする。

「や、やってるわよぉ……」

は必死に反論したものの、その頃になると、尿意はかなり強いものへと変わっていた。
正直、手足を動かせないだけでも相当苦痛であるし、身を捩らせて尿意を紛らわせない分、チョロチョロと水が零れてきているのがわかる。

(やだ、また……)

いや、既におちびりなどとは言えないくらいショーツは濡れているのだろうが、流石に十五歳を越えてお漏らししたなどとは考えたくもない。

(でも、もうこのままだと全部漏れちゃうかも……)

は意を決して、二人に向かって「あのね」と声を張った。

「ん?」
「どうかしたのか?」

シュラとデスマスクは不思議そうな顔でを見ている。
彼女は羞恥に耳朶まで赤くなるのを感じながら、「実は」と切り出した。

「さっきからずっと、その……トイレに行きたくって……」

恐る恐る二人の反応を窺うと、彼らも全くの予想外だったらしく、「マジかよ……」と半ば呆然とした口調で呟いた。
だが、シュラが「それなら、縄、解くか?」と提言してくれたのを遮って、卑劣漢で通っているデスマスクがにやりと笑う。

「何だよ、もう小便漏れそうなのか」
「う、うん……」
「とか言って、本当は解けないからそんな事言うんじゃねーの?」
「ち、違うわよ!」

は叫んだが、その拍子にまたじんわりと股間が熱くなった。

「あ……」
、まさかお前……」

が俯くとシュラは察してくれたようで、慌ててデスマスクに「もうやめてやろうぜ」と耳打ちしたのだが、デスマスクにとってはにリベンジする絶好の機会である。

「おい、シュラ。偶にはが泣くところも見てみてぇじゃん」
「だが、それは……」

シュラが言葉を探しあぐねている内に、デスマスクは尚も畳み掛ける。

「別に漏らしたって俺らしか見てねぇんだしよ、ちょっと面白そうだからこのままにしとこうぜ」
「ちょ、ちょっとデスマスク、何言ってんのよ」

も思わず声を上げたが、腹に力が入る度に、じわじわとショーツが濡れていく感覚が不快で恐ろしい。

(これ、絶対スカートにまで浸みてる……)

さっと血の気が引く思いなのに、我慢のし過ぎで体は汗ばんでいて熱い。

「俺、漏らすまで解いてやらねぇから。自力でどうにかするんだな」

デスマスクがにんまりとして高みの見物を決め込む。
シュラも、最初は戸惑っていたようだが、やはり日頃にしてやられてばかりなのは悔しかったのか、「じゃあ、オレもそうするかな」ととうとう助け舟を引っ込めた。

「そんな、酷いよ……」
「ああ?お前も大概無茶言ってくるだろうが」

確かに、は実力があるが故に、二人に対して普段は常に居丈高である。

「ねぇ、お願いだから今日だけは勘弁してよ……。ホントにもう我慢できないの」
「だからこそ、だろ。こんな千載一遇のチャンス、逃せるわけがねぇよ」
「チャンスって……私が本当にお漏らししてもいいっていうの?」
「当たり前だろ、その為にこうやって放置しているわけで」

それに、シャカにだって偶には一矢報いたいしな、と言われ、ははっとした。

「シャカ様にだけは、言わないで……」
「師匠に知られるのはやっぱり恥ずかしいのか」
「そうに決まってるでしょ。それに、怒られたくないし……」

にとって、シャカは師匠でもあり同時に親のような存在でもある。
いい歳をして粗相をしたなどとあの気位の高い男が聞けば、いくら愛弟子のだってただでは済まないだろう。

「怒られたくないって、お前、結構ガキみてぇなところがあるんだな」

デスマスクは大笑したが、にとっては気が気でない。

(そっか、お漏らししちゃったら、シャカ様にも知られる危険性が出てくるんだ……)

それだけは何としても避けたい。
しかし、が嫌がれば嫌がるほど、眼前にいる二人の男は燃えるようで、「いっそ小宇宙を飛ばしてシャカを呼ぶか?」などと洒落にならないことを口走っている。

「お願いだから、やめて……っ」

懇願の声もむなしく、尿意の大波は容赦なくを襲う。

「あ、ぅ……」

じょわじょわ……と、もう何度目になるかわからないおちびり。木綿のショーツのクロッチの部分は絞れるほどに濡れている。

「うぅ……」

しかも体が震えて、縄で縛られている身では胴震いに備えることもできず、ただただその度に尿を漏らし続けるしかなかった。

「何?チビってんの?」

デスマスクは容赦なく、の顔を覗き込む。

「や、ぁ、こないで……」

男たち二人にしてみれば、女神の如き気高さを持ったこの少女が、羞恥に打ち震えているだけでも充分に肉欲を煽られるというのに、そのうえ「おもらし」だなんて、背徳的でどこか耽美でもあり、考えるだけで股間に熱が集まってくるようだ。
もう、シュラもデスマスクを止めることをやめている。

、早く漏らしたほうが楽になるんじゃないか」

などと言って、下腹部を縛っている縄を指で押さえたりする。

「あっ……やめて、もう、だめ、出ちゃう……」

喘ぎながら、は必死に体を折り曲げようとするが、それだと縄が腹を締め付けるので、却って逆効果だ。

「あああっ……」

何度目かの尿意の波に耐えかねて、ついには力を抜いてしまう。
シュイィィー……という水音が聞こえ、慌てて括約筋を締めようとするが、水圧のほうが強い。

「あうっ……」

下腹部に鋭い痛みが走り、たじろいだ一瞬の隙を逃さずに残りの尿が一気に押し出されてくる。
まるで水道の蛇口を捻ったように、シャアアアアーという澄んだ音が、沈黙の落ちた小屋中に響いた。

「いやあああ、見ないで……。お願いだからっ……」

必死に懇願しても、二人は呆然とを見つめている。
流石に、煽ったデスマスクとシュラも絶句したまま、彼女の周りに大きな水たまりが拡がっていくのを眺めていた。

「ひっ、く……」

のか細い嗚咽と共に、水音は徐々に弱まっていき、一分以上に渡った長い失禁が終わりを告げた。
彼女の白いワンピースはぐしょぐしょに濡れて、まるで水の中に浮かんでいるようだ。

……」

シュラがおずおずと声をかけたが、は俯いたまま動かない。
無言のまま、これまでの苦戦が嘘のように縄を切り離し、彼女の肉体から放たれた麻縄はするすると蛇のようにとぐろを巻いた。

(トイレさえ我慢してなかったら、こんなもの……)

は歯噛みして、自分を取り囲む縄と水たまりを凝視する。

、大丈夫か?」
「何ていうかその、マジでごめん……」

シュラもデスマスクも気まずそうに口ごもり、目を合わせない。

「いいよ、もう……」

はそう呟いたものの、自分の格好がとても恥ずかしいことになっているのが容易く想像できるので、立ち上がることができなかった。

(後始末、どうしよう……)

それはシュラもデスマスクも同じ考えのようで、「どうする?」「さあ……」などとひそひそ囁き合っている。
―――それから数分も経っただろうか。

「……誰かに呼ばれた気がしたのだが」

ふと、入口のところで落ち着き払った声がし、シュラとデスマスクが振り返ると、先程噂していた相手が立っていた。

「シャ、シャカ……」
「え、俺は呼んでなんかねぇぞ……」

シャカは無言で二人に一瞥をくれると、つかつかと小屋の中に入ってきた。
そして、中で萎れた花のようになっているの姿を認めると、事情を全て察したのか、自身の服が濡れるのも構わずに膝をついた。

、大丈夫かね」
「ふぇ、だいじょうぶじゃないよぉ、シャカさまぁ……」

シャカはそっと手を伸ばして、を抱きかかえるようにして立たせる。
ポタポタと雫を落とすスカートを、雑巾を絞る要領で手際よく絞って水気を切り、されるがままになって泣いている少女を軽々と姫抱きに抱え上げた。

「私の可愛い弟子に恥をかかせた罰だ。掃除は君たちがしておきたまえ」

そう言い残すと、スタスタと小屋を出ていく。
その後ろ姿を見送りながら、デスマスクが「親馬鹿め……」と毒づいたが、二人が天舞宝輪をかけられずに安堵したことは言うまでもない。





―――帰り道。
まだ泣き止まないを抱いたままの状態で歩きながら、シャカはふと赤子を育てているような錯覚に陥った。

(私が親になるとしても、肝心の嫁がこれでは、な……)

ゆるゆると首を横に振って苦笑したものの、本人が気付いていないだけで、シャカは彼女にベタ惚れである。
だから寧ろ、シャカにとっては愛弟子の失態すら愛しいのであるが、勿論、そんなシャカの心中をが知る由もなく。二人はまだ、もどかしい師弟関係を続けていくのであった。

某書籍に載っていた体験談をもとに。