初めての失敗

は家までの道を急いでいた。

(早く、お家に帰ってトイレに行きたい……)

放課後に友人達と飲んだ冷たいオレンジジュースの影響か、現在、強い尿意に襲われている。冷たい飲み物がもたらす尿意は強烈である。歩く度にほんの僅かではあるけれど、下着が湿っていっているのがわかった。

(これじゃ、お姉ちゃんのこと笑えないわ)

の姉であるは、何故か中学三年生になっても粗相が絶えない。しかも夜の失敗ではなく、主に起きている時におもらしをするのだから、は内心で見下していた。
なんでトイレに間に合わないのよ、いい歳して。
本人にそう言い放っても、彼女はしゅんと肩を落とすだけである。あまり詰っていると父親に叱られるので強くは言えないが、中学三年生にもなっておもらしなんてする姉を馬鹿にしているのは事実だ。
だがは今、生まれて初めてトイレに対する危機感を抱いている。

(間に合わなかったら、どうしよう)

それくらいに、下腹部を苛む圧迫感は酷い。歩く度に膀胱がたぷたぷと音を立てているような錯覚を覚える。

「あ、あぁぁ……」

途中、どうしても耐えられず立ち止まった。自宅があるのは閑静な住宅街なので、人気はない。動きを止めたその隙を逃さず、少量の尿がチョロチョロとショーツを濡らす。辛うじて全部ぶちまけるのは堪えたけれど、限界が近いことは明らかだ。

(早く、お家に……)

すぐ目の前に自宅の門扉が見えている。は藁にも縋る思いで、玄関の扉に手をかけた。
ただいま、も言わずローファーを脱ぎ捨て、お手洗いまであと一歩というところ。

「あっ……!嫌、ぁぁぁ……」

出ないで、出ちゃダメ。
一際大きな尿意の荒波に身を揉まれるように、は小さな体を折り曲げて耐える。
けれども尿道口を突き破ろうとする水圧には抗えず、思わずしゃがみ込んだ。

「ああぁぁぁぁ……」

またしてもチョロチョロと、ショーツの中に生温い感触が広がっていく。そして薄布の吸収し切れなかった分が、廊下にポタポタと落ちた。

「あっ……や、止まって……」

泣きながらの哀願も生理現象には勝てない。じわりじわりと滲み出るおしっこが、徐々にショーツに沁み込んでいく。
物音を察してか、リビングに続くドアが開いた。

?それとも?」

帰ってきたのか、という父親ののんびりした声。だが一転、トイレの前の床に蹲っている娘を見て、「!?」と素っ頓狂な声に変わる。
あと、トイレのドアノブに手をかけるだけなのに。その動作ができない。

、どうした、腹でも痛いのか?」
「うぅん、違うの……」

けれどいつも姉のことを揶揄っている手前、まさか自分までおもらししたとは言い出せない。そうこうしている間にも、じわじわとショーツの内側は染み出る尿で濡れていく。脚の間の水溜りも少しずつ大きくなっていた。

「……っくぅ」

下腹部の痛みに耐えかねて少しでも力を抜けば、下着に大量の尿が拡がる。ちょうど和式トイレに跨っているような格好なので、脚の間にはもう隠し切れない水溜りができていた。

「もしかして、……」
「だって、間に合わなかったんだもん……っ!」

いつか姉が同じ台詞を言った時は鼻で嗤ったものだが、いざ自分の身に起きてみると辛い。返事をしている間にも、脚の間にはポタポタと雫が落ちてゆく。しかもこれは前兆でしかないのだ。膀胱にはまだたっぷりと尿が残っている。

「あっ、や……」

ああぁぁぁ、と絶望の叫びと共に勢い良く排出される温かな液体。足が震えて踏ん張っていられなくなり、ぺたりとその場に座り込んだ。父親には、スカートの捲れた部分から白いコットンのショーツが覗いているのが見えているだろう。そこから溢れ出てくる水流の軌跡さえ。次から次に水は溢れ出し、全てを出し終えて下腹部が軽くなる頃には、水溜りの中にスカートがどっぷりと浸かってしまっていた。

……」
「う、うえぇぇぇん……」

あともうちょっとで、こんなに恥ずかしい思いをせずに済んだのに。あと一歩だったのに。

「ちょっと待ってろ、取り敢えずタオル持ってくるから」
「うわぁあん、パパ、ごめんなさい……」
「大丈夫だから、そんな泣くなって」

父親が自分に途方もなく甘いことは知っているけれど、流石にこの失態には呆れたろう。は惨めさと恥ずかしさと情けなさでさめざめと泣く。

(あっ、また……)

そして泣いている内に体が冷えたのか、こんなにも失禁した後だというのに、まだ膀胱には尿が溜まりつつあった。

、これ敷いて」

父親が何枚かの大判バスタオルをに手渡してくれる。
一枚を濡れた箇所に被せ、もう一枚を股間に差し入れたところで、抗い難い強い尿意に襲われ、反射的に体を丸めた。

「やだ、まだ、出ちゃいそう……」
「タオルの上にしちまえよ。立てるか?」

首を横に振ると、後ろから抱え上げられる。丁度、幼い子供が大人に抱きかかえられて用を足しているような体勢だ。

「や、だ、恥ずかしいよ、パパぁ……」
「誰も見てないからいいだろ。ほら、早く出してしまわねぇと辛いだけだぞ」
「ふ、ふえぇぇぇ……」

顔を両手で覆い、幾重にも重ねられたバスタオルの上に、ショーツを穿いたままの状態で放尿した。排泄音に耳を塞ぎたくなる。

「は、あぁ……」

羞恥と絶望、そして相反する解放感の入り混じった吐息が零れた。

「スッキリしたか?」
「うん……」
「濡れた制服はここで脱いでおこうな」

水滴が垂れるから、と言われ、絞れそうな程ぐしょぐしょに濡れた制服のスカートを見て、改めて羞恥心を覚える。

(すごい、量……)

がもたくさと上着のボタンを外している間に、父親は手早くスカートのホックとジッパーを外して落とし、コットンのショーツに手をかけた。まだ陰毛すら生えていないつるりとした性器が露になる。姉もそうなのだが、自分たち姉妹は発育が遅いのか、幼稚園児のような見た目だ。そして、こうやって粗相をしてしまうところなんかも幼児と一緒。

、靴下も脱ごうな」
「うん……」
「ほら、足上げろって。脱がせられねぇだろ」

それにしても父親は優しい、とは思う。いつも自分にはとびきり甘いが、失敗を責めることなく優しく始末をしてくれる。姉は毎回、粗相の度にこんな甘やかな待遇を受けていたのか。
姉とは違い、は甘えたがりな性分なので、優しくされるとどこまでも甘えたくなる。

「パパ、ごめんなさい……」
「いいよ。つか、が失敗したとこなんて初めて見たな」
「うん、初めてだもん……」

だからおもらしの後始末をしてもらうのが、こんなにも甘美だということも知らなかった。

「ずっと我慢してたのか?」
「うん、学校帰りにみんなでジュース飲んだの」
「ああ、なるほど」
「トイレの前まではなんとか来れたんだけど、間に合わなかったの……」
「そっか。あとちょっとだったのにな」
「ん……」

それは流石に悔しくて、唇を噛み締める。

「まあ、生きてりゃこんなこともあるよ」
「そうだよね……」
「だからこれからは、あんまりお姉ちゃんのことも揶揄っちゃ駄目だぞ」
「はぁい」

は決まり悪そうな表情で、肩を竦めたまま頷いた。そうだ、姉のことは今度から揶揄えない。けれど―――。

(今度、わざとおもらししてみようかな……)

パパがこんなに甘やかしてくれるなら、とは決して悟られぬように、胸の奥深くで小さく微笑んだ。

妹ちゃん初登場です。